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空がどんどん暗くなり、もうすぐ安全地帯に着くと思っていたのに、まるで「新手村」の門前で大きな虎が立ちふさがったかのように、厄介な目に遭ってしまった。
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陸風が幽影猫を連れて暮色要塞に近づいた途端、突然、空気に異常なにおいが漂ってきた。下品な化学兵器が漏れたような、腐肉の臭いと硫黄の刺激臭が混合したにおいで、陸風は眉をひそめ、胃の中がグルグルと騒ぎ始めた。
「何だこれ…?まるでバイオハザード現場だ」と陸風は小声で呟き、素早く簡易の布で口元を覆った。この時代、防毒対策がないと「穿越者」自称できないほどだ。
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幽影猫も警戒し、耳を立て、青い瞳に鋭い光を放ち、喉から低いうなり声を漏らした。明らかに前方に異変がある。この子の鼻は陸風の数十倍に敏感だ。
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陸風は足を止め、目を細めて周囲を観察した。遠くの暮色要塞は夕日に照らされ、ずっとじっとしている巨大な怪獣のように陰気をまとっていた。まるでホラー映画の撮影現場のようだ。空気には淡い血の霧が漂い、視界はぼんやりとしており、瓦礫の輪郭しか見えなかった。
「この霧は、まさに世界末日だ」と陸風はついつぶやいてしまった。
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「小幽、気をつけろ」と陸風は声を落として注意し、手にナイフを握りしめた。このナイフはゲームの限定版グッズだったが、誰が想定しただろうか、今や命を守るための武器となった。まあ、やはり公式製品は頼もしい。
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「ニャー」と幽影猫は鳴き、姿をくぐって暗闇に消えていった——先遣隊として道を探すのだ。
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このようにして安全度が一気に上がった途端、冷たい風が吹き抜け、陸風は不気味な寒気を覚えた。まるで何者かに狙われているかのようで、鳥肌が止まらない。
「この場所は…おかしい」と陸風は心の中で呟き、拳を握りしめながら、気をつけて前に進んだ。
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その瞬間、幽影猫が悲鳴を上げ、またしても暗闇の中に消えてしまった。
「小幽!」
陸風は胸が騒ぎ、幽影猫の消えた方向に飛び出した。この子は今の唯一の味方だ。何があってはならない!
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しかし、その数歩の間に、地面が「ドン」と激震した。続いて、暗闇の中で血のように赤い瞳がゆっくりと開いた……
「クソ!何だこれ!」
陸風は罵倒しながら、緊張感が急上昇し、アドレナリンが沸き上がった。まさか、ここでモンスターバトルが始まるのか!
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ゲームプレイヤーの直感を頼りに「スキャン」状態に入り、暗闇の中の敵を探そうとしたが、血の霧が濃すぎてほとんど視界が確保できない。ただ、巨大な影と、ゴリラの瞳のように赤い光を感じ取るだけだった。
「この圧迫感は間違いなくボス級だ」と陸風は事態を深刻に考えた。
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「先祖伝来」の板状の石——実際には普通の大きな岩——を武器に取り出そうとしたところ、目の前の光景に息を飲んだ。
静かに眠っていた月光湖の湖面に、淡い銀色の光が広がり始めた。鏡のように湖面に月が映し出され、まるで幻想的な世界だった。
しかし、その安らぎは束の間だった。
急ぎ足の音が近づき、周囲の静けさが壊された。そして、さえびえる声が響いた。「助けて!誰か助けてください!」
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陸風の視線が、追いかけられる女性に向かった。すらりとした体つき、端正な容姿の女性が、何名かの黒装束の男に追われていた。銀色の長髪は月光を浴びて輝き、まるで月の女神が現れたかのようだった。
「エルフの娘?」と陸風は叫んだ。この美貌は、彼の世界のどんなアイドルよりも格段に輝いていた。
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しかし、これは美人を眺めている時間ではない。黒装束の男たちは一見敵わない相手で、数に圧倒されたエルフの娘は明らかに劣勢だ。
「これはヒーローが登場する時だ!」
自分自身も危険な状況だが、良心のあるゲームテスターとして、見死不救はできない。
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「おい!何人そろって弱い女を脅かすのは、男の恥だ!」と陸風は叫ぶと、案の定、黒装束の注意力が彼に向かった。
「クソ野郎!命が惜しいならさっさと引き下がれ!」と男は威嚇した。
陸風はにやりと笑い、「お前らを恐れる気になれるか?」と言いながら、自慢のポーズを見せた。「今日こそ正義の味方になってみせる!」
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その瞬間、手に握った岩を持って、敵の群れに向かって駆け上がった。
「お前なんかで」と男は冷笑し、刀を振りかざした。
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たちまち、混戦が始まった。陸風の戦闘能力は平凡だが、ゲームプレイヤーの反射神経と地形に関する知識が役に立ち、なんとか応戦していた。しかし、黒装束は訓練有素で連携が取れており、間もなく陸風を窮地に追い込んだ。
「まずい…今日ここで終わりか?」と陸風は絶望感を覚えた。
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その時、エルフの娘が動いた。
両手を合わせ、呟きかけると、銀色の光が彼女の体から爆発し、月光湖全体を照らした。
黒装束たちは光に触れた瞬間、悲鳴を上げ、体から煙が立ち、焼かれたように倒れた。
「これは…月光の力?」と陸風は驚愕した。
「逃げて!私はしばらくしか彼らを止められない!」と彼女は力なく叫んだ。
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陸風は手遅れにならないように、彼女を支えながら暮色要塞の方向へと逃げ出した。しかし、黒装束は簡単に諦めず、月光の束縛から脱して追い続けた。
「クソ野郎…まるでダメージの効かないゴキブリだ」と陸風は心の中で罵った。
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そこに、幽影猫が再び現れた。
姿を消して暗闇に潜み、次々に黒装束を蹴倒した。
「小幽、最高!」と陸風は感動した。この子は無事だったばかりか、奇襲を得意にしたのだ!
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幽影猫の活躍で、ようやく追跡を逃れた二人は、暮色要塞の近くまで辿り着いた。
「助けていただきありがとうございます」と彼女は感謝の眼差しを向けた。
「いやいや、正義の味方だからさ」と陸風は手を振りながら笑った。
「そうだ、お名前は?」
「エリアです」と彼女は小声で答えた。「月光の森の最後の継承者です」
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「月光の森?」と陸風は眉をひそめた。「どんなところですか?」
エリアはため息を漏らし、ゆっくりと語り始めた。「かつてはこの土地で最も美しい森でした。しかし、今は血煞門に破壊されました」
「血煞門?」陸風は顔を曇らせた。「一体どんな組織なのですか?」
「邪悪な修験者たちの集団です。目的のためなら手段を選ばず…」エリアは続ける。「彼らは私の一族を全滅させ、私の故郷を破壊したのです」
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陸風は沈黙した。平穏なはずのこの世界に、これほど残酷な物語が隠れていたとは思わなかった。
「今後どうするつもりですか?」と彼はエリアを見つめ、小声で聞いた。
エリアは顔を上げ、瞳に決意の光を宿した。「復讐します。血煞門に報いを求めるのです!」
「手伝おうか?」と陸風は訊�ねた。
エリアは彼を見つめ、少し躊躇ったあと、「本当に…私の味方になってくれるのですか?」
「当然だ」陸風はさっそく答えた。「俺たちはもう友達だろ?」
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エリアは感謝の笑みを浮かべた。「ありがとうございます。でも、血煞門は簡単に倒せる敵ではありません。実力も、手段も…」
「わかってる。でも、諦めるな」陸風は笑った。「俺たちが力を合わせれば、きっと勝てるはずだ。血煞門なんて、ゴキブリのようなものさ」
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エリアは頷き、二人は肩を並べて、遠くの暮色要塞を見つめた。
「そういえば、まだお名前を聞いていないのです」とエリアは突然訊ねた。
陸風は唇を曲げ、言葉を呑み込んだように少し沈黙し、からかったように言葉を延ばした。エリアは困惑そうに彼を見つめた。
「……陸風だ」
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周囲が一気に静まり返った。エリアは彼をじっと見つめ、複雑な表情を浮かべ、言葉を呑み込んだ。最後に、力なく「私……」と言葉を漏らした。
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エリアの欲言又止を見て、陸風は内心苦笑いした。この娘はきっと、この名前を何処かで聞いたことがあるのだろう。畢竟(ともかく)、彼はチーフテスターで、ゲーム内でこのIDを使い続けてきた。
「安心しろ。俺はあの種のメタ主人公ではない」と陸風は肩をすくめ、緊張感を払拭した。「友達が多いほど道は広がる。エルフの……いや、味方が増えただけでも勝算は上がる。さ、『血煞門討伐隊』に入ってくれないか?世界の平和を守るために」
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エリアは陸風のノリに笑い出し、「プシャ」と銀鈴のような笑い声を上げ、緊張感がほぐされた。彼女は真剣に何度も頷き、「はい!月光の森のために、そして……助けていただいた恩に答えるために」
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その瞬間、陸風の脳裏にゲームの効果音が鳴った。「叮!英雄ユニット『精霊の王女エリア』を仲間にできました!『異世界領主』経験値+10!」と。
まるでリアルタイム版『ヒーローズウォー』をプレイしているかのようだ。
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陸風がこれからの作戦を考えている最中、遠くから重低音のような咆哮が伝わってきた。地面を震わせるほどの圧迫感で、まるで何か巨大なものが迫ってくるかのようだ。
「クソ……まさかゴジラまで来るのか!」と陸風は罵倒し、全身の毛が逆立った。
エリアの顔色は青白く、杖をしっかり握りしめた。青い瞳には恐怖がこみ上げていた。
遠くの咆哮に、全員の鼓動が加速した。エリアは陸風の腕を引き寄せた。
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